”談笑・お酌”は風営法違反!? 経営者の逮捕相次ぐ

警察が過度な取り締まり 罰金100万円・廃業も

北の歓楽街、札幌・ススキノが、風俗営業法(風営法)で揺れています。同法の許可を取らず“接待”したとして、北海道札幌方面中央警察署の署員が十分な指導もせずにスナックの経営者らを相次いで逮捕しました。100万円の罰金を科され、廃業に追い込まれる店も。店が提供していた酒や清涼飲料水の出荷量も減少、街全体の活気にも影響が出ています。

「接待」しただけで店内で手錠・腰縄

「風営法の許可を取っていないのに接待しましたね。逮捕します」。16年春、ススキノのスナックに警察官が突然押し入り、その場でママを逮捕。その場にいなかった経営者の自宅を家宅捜索の上、パソコン、売上伝票、確定申告書などを押収し逮捕しました。
「女の子が隣に座って接待したというだけで罰金100万円。店がつぶれてもいいということでしょう」。経営者は怒りをぶつけます。
ススキノで店を構えて十数年になりますが、風営法で警察から注意を受けたのは、たったの一度。逮捕される数カ月前のことでした。「1年ぐらい前から、一度は注意、二度目は逮捕される、ということが起きている。ここ数年の逮捕者は20人近くになるのでは」
「注意もされることなく突然逮捕されたママもいる」と話すのはスナックを経営して20年以上のベテランママ。「店の中で手錠をかけられ、腰縄をされた経営者もいる。罰金は軒並み100万円。拘留は2週間前後と聞いている」といいます。
警察による事情聴取も過酷です。「暴力団との関係や、脱税のことも聞かれた」「風営法の許可を取っていない店をうたえ(密告しろ)と言われた」「話してもいないことを調書に書かれ、否定しても撤回してくれなかった」「調書にサインをしないと、ここから出られない、裁判になるぞと脅された」…。

”おとり捜査”まで 解釈1つで犯罪に

さらにママたちからは驚くべき話が出されました。「初めてのお客が店に入ってきて、スマホで店の中の写真を撮ったり、電話をかけたりした直後に警察が入ってくる。お客を使っておとり捜査をしているのではないか」。逮捕されたママさんたちの容疑は、風営法の許可を取らずに客を“接待”したというもの。「見知らぬ客」が“接待”の現場を確認していた、というわけです。
それにしても、処罰や過酷な取り調べを受けなければならないほどの“接待”とはどういうものか。
風営法は「接待」について「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と規定。それを具体的に示したものが警察庁の通達「解釈運用基準」(図1)です。いわく、(1)談笑、お酌をする(2)ダンスを見せる(3)カラオケを歌い、ほめそやす。ママが歌を選曲する(4)客の側にはべる(5)一緒にゲームをする(6)体を密着させる。「アーン」といって食べものを食べさせる―。
ママさんたちは口をそろえて言います。「警察のおエライさんたちも店によく来るけど、カラオケを使って歌を歌うし、女の子が横に座っておしゃべりやお酌もしていますけどね」
北海道札幌方面中央警察署は、この7月を風俗営業店や深夜酒類提供飲食店に対し「立ち入りを強化」すると広報。風俗営業許可を申請する動きも広がっています。

商売つぶす風営法 飲食店守る共同を

「風営法の許可を取ることは、業者にとってデメリットもある」と指摘するのは、北海道商工団体連合会の池田法仁事務局長。日の出まで営業できる深夜酒類提供飲食店と比べ、風営法の許可を取れば営業時間は深夜1時まで(ススキノの場合)。また、風俗営業店は信用保証協会の保証対象外として扱われ、経営が厳しくなっても金融機関から融資を受けることが困難で、サラ金やヤミ金に手を出すことになりかねない、と警告します。
お客に笑顔になってほしいというママの願いや「まちのオアシス」といわれるスナックをここまで追い込んでいいのか。カラオケを歌うことが「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止」するとした風営法に触れるのか。
全商連の遠藤強常任理事(運動・政策委員長)は言います。「警察による過度な取り締まりの実態を調べるとともに、業者の営業の自由と地位向上のため、弁護士・議会とも共同した取り組みを全国的に進めたい」

風営法の解釈基準見直せ=中村和雄さん(弁護士)に聞く

「改正風営法」が今年6月に施行され、深夜まで飲食を提供できる営業形態としてこれまでの風俗営業、深夜酒類提供飲食店に加え、ダンスなどができる特定遊興飲食店営業が新たに加わった。しかしその境界はあいまいだ。警察は「法改正」に合わせて取り締まりを強化することで、権限の拡大を図ろうとしているのではないか。
風営法は「ダンス規制」問題で明らかになったように時代遅れの法律だが、その目的は性風俗の乱れを取り締まることにある。それとは関係のない限り規制すべきものではない。まず教育的指導が重要であって、84年の「改正風営法」付帯決議(図2)の趣旨に照らしても今回の警察のように逮捕・罰金ありきというのは順序がまったく逆だ。
そもそもカラオケをしたりお酌をしたりすることが「歓楽的雰囲気を醸し出す」接待なのか。警察庁の「解釈運用基準」は「接待」を幅広く解釈しているが、風営法とともに基準自体を見直すべきである。

全国商工新聞(2016年8月8日付)

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2017年4月14日 | カテゴリー : 経営対策 | 投稿者 : 岡商連